~渋谷にでっかい3D子犬 ハチ公出現~
街の大型サイネージは、
自らロケーション価値を生み出す方向に進むのか?
今年のデジタルサイネージアワード2022のグランプリ作品は、「新宿東口の猫 / GIANT 3D CAT」であった。まだご覧になっていない方は、新宿に行かれる機会があればぜひご覧いただきたい。
・・あの猫ちゃんはあのビルの上に住んでいるんだなあ、今日ものんびり元気そうで良かった、街の中でたくさんの人と一緒に同じものを見上げて楽しい気持ちになることが、またあって良かった、そういう人々の気持ちと共に、新宿に新しい名所が生まれたのである。
街の大型サイネージで3Dコンテンツを放映するのは、ただ3Dであれば良いわけではない。裸眼の3Dなので、つい、いかに3Dらしく見せるか、いかにインパクトのあるコンテンツ(海があふれるとか!)を放映するかということに、注力してしまいがちだが、それでは1回限りの驚きにしかならないし、もはや見る人たちは「3D映像である」ことだけでは価値を感じない。そもそも魅力のあるコンテンツであって、「これが巨大でリアルだったらすごく楽しいだろうな」と想像できるレベルのものでなくてはならないのだ。
新宿の猫以来、街のサイネージ上にどのような3Dコンテンツが出現しているかは、こちらのバックナンバーに詳しい。https://digital-signage.jp/express/25763/
さて、そこでこのたび渋谷に登場したのが、3Dの子犬ハチ公のカラクリ時計。渋谷駅前といえば、昨年のデジタルサイネージアワード2021に登場した「すしで、笑おう 渋谷ジャック企画」で、複数のサイネージをお寿司が回るという楽しい体験が実現した場所だ。次に一般の話題になる屋外大型3Dサイネージが出現するとしたら、それは渋谷ではないかと筆者も期待していた。その一方で、サイネージ激戦区渋谷では、ちょっとやそっとの3Dコンテンツでは、人々の目にとまらないのではないかと危惧もしていた。そもそも、渋谷の駅前で人々はいまさら頭上のサイネージなんか見ていないかもしれないではないか。
しかし、この子犬は良い意味で予想を裏切ってくれたと思う。初日こそ、WEBNEWSで「気づいた人はごくわずか」と書かれていたが、複数のサイネージを行き来する仕草のかわいらしさや、「サイネージ間を飛び交う想定のフライングディスクをキャッチする」というロケーションを生かした技が動画投稿され始めると、「この子を見るために渋谷に行きたい!」という反応が増えつつある。仕組み的には、新宿東口の猫が3Dを実現するためにL字型のディスプレイに住んでいるのに対して、子犬が遊ぶサイネージ空間は基本的に平面の組み合わせであるにもかかわらず、だ。
現状1時間ごとに30秒だけの放映なので、遭遇する人が増えるまでに、ちょっと時間はかかるかもしれないが、この子犬は渋谷駅前サイネージ群のロケーション価値を上げ直すことになるだろう。そして新宿東口の猫のように、渋谷駅前という場所そのものを楽しい気持ちになれる場所にしてほしい。
サイネージは、そもそもロケーションしだいというのもそのとおりではあるのだが、これからは自らロケーション価値を上げるという視点が大事なのではないだろうか。(Y.K.)