生成AIが切り拓く、デジタルサイネージ広告の新時代
いまや生成AIがビジネス関連のニュースで取り上げられない日はない。オープンAI、アンソロピック、コーヒアら生成AI各社には巨大IT企業の資本が流れ込み、NVIDIAは生成AI関連銘柄として“マグニフィセント・セブン” の仲間入りし、日本発Sakana AIの新しい手法を世界が注目している。
生成AIはあらゆる産業のパラダイムシフトを生むが、デジタルサイネージ業界もまた例外ではないであろう。今回は生成AIがどうデジタルサイネージビジネスを変えるかを、特に広告サイネージに注目して5つの重要な視点から考察してみたい。
■広告サイネージ×生成AIの5つの視点
1. データ視点
センサーと画像解析による接触者データの収集と分析が進んでいる。画像解析だけなら識別AI領域であるが、分析精度を上げ、社会情報や消費活動データを重ね合わせ、そこから接触者のペルソナ像を作り、さらにそのペルソナ像の持つ情報嗜好性や行動性向を想像(創造)することが、生成AI活用で考えられる。
2. 広告クリエイティブ視点
2.のデータを元にして、ターゲット像とサイネージロケーション文脈を合わせた広告クリエイティブを生成AIが制作する。これを複数同時にリアルタイムで、しかも極めてローコストで制作することが可能になると、フルタイムABテスト配信様の広告配信が可能になる。究極のパーソナライズド広告クリエイティブのPDCA配信である。
Adobe Fireflyに頼んでみたサンオイルの広告案。
ちなみにトップ画像もAdobe Fireflyに「生成AIが切り拓く、デジタルサイネージ広告の新時代」というテーマで描いてもらったものである。
3. 広告運用視点
このような膨大な量のパーソナライズド広告クリエイティブを、データ解釈と最適な配信配分検討をしながら運用することは、人力ではほぼ不可能であり、生成AIの活用が必要とされる。ここにはまたBPO的な省力化・省コスト化の意味付けも含まれる。
4. 広告販売モデル視点
ここまでの1~3を見ると、この変化はネット広告の運用型広告に近しいことが分かるのだが、DSP、SSP、自動入札、さらにRTBといったインターネット広告技術をデジタルサイネージ領域に適用することは、新しい広告モデルの構築に繋がる。「代理店が一括で請け負うナショナルクライアントの広告出稿」だけでなく、「運用画面を使った直販による小規模リテール・小口事業者の広告出稿」のような新たな販売モデルも拡大していく。そうなった時に、場所の価値、サーキュレーション、天候、滞留性など、ネット広告より遥かに媒体価値の変数要素が多いデジタルサイネージで1imp価値ごとのマージをとっていくために生成AI活用は有用であろう。広告主は、より自分に適した方法で、より効果的な広告スペース購入を、より簡単に、リアルタイムでおこなえるようになる。
5. 広告審査視点
(準)公共空間に表示されるデジタルサイネージでは、鉄道広告であれ屋外ビジョン広告であれ、広告内容考査の重要性は高い。エリマネ的公共空間では行政判断もそこに加わる。考査方法は人力に依らざるを得ず、判断基準も概念的になりがちで、手間も時間もかかる。それを生成AIに過去データを大量に読み込ませることで、審査プロセスを迅速化し、精度を高め、可否判断のアカウンタビリティを高めることが可能となる。
以上、多少夢物語な視点で広告サイネージ×生成AIの可能性について述べてみた。
4.で記述したように、ネット広告の仕組みの後追いに留まらず、今まで明示化しにくかったデジタルサイネージならではの独自価値を変数化し解析することが可能になれば、メディアとしての独自価値はより高まる。
例えば、富士通は、店内行動データを基に、ユーザーに最適化された広告を生成AIを駆使してリアルタイムで展開することで、購買促進につなげる実験をおこなった。*1
名古屋鉄道はAIを接触者分析に活用する実験をおこなっている。*2
これ以外にも視線認証や広告考査の分野でもAI導入検証は始まっている。
富士通のウェブサイトより
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2023/08/2.html
*1 https://pr.fujitsu.com/jp/news/2023/08/2.html
*2 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000089084.html
夢物語と言いながらも実際の開発スピードは想像以上に早い。
デジタルサイネージは街の空気を映したコンテキストメディアであるが、それをやっと説明できる時代になるのかもしれない。
(K.K)