DSC EXPRESS
Vol.028

DSC EXPRESS Vol.028をお届けします。
毎月15日発行です。どうぞ宜しくお願い致します。

  • いま厳しく問われる交通広告の媒体価値

    いま厳しく問われる交通広告の媒体価値

    9月3日、交通広告業界に激震が走った。JR東日本のニュースリリース「ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについて」によると、終電の繰り上げや始発の繰り下げなどが2021年春に予定されているというのだ。重要なのは根拠として提示された乗降客数減少のデータである。
    昨年と比較して8月の利用状況は、山手線の場合終日で38%減、朝のピーク時間帯は36%減、最も乗客が多い時間帯で42%減、終電付近は66%減という大幅な減少だ。データこそ公開されていないが、私鉄や地下鉄の状況を見てもこの傾向は変わらない。筆者が9月1週の首都圏の複数の鉄道会社の電車内サイネージの出稿状況を実際に乗車して確認したが、8月よりは改善してはいるものの、自社広告や、おそらく長期的な契約に基づいた出稿のように思われるものも多く、新規の出稿は極めて少ない。
    これまでの交通広告は乗降客数をその媒体価値として位置づけているので、38%媒体価値が減少しているではないか、という論が当然出てくる。出稿量の減少はもちろん、金額交渉に持ち込まれる可能性もある。実際のセールスではかなりの値引きが行われている。
    さらにリリースでは「今後、感染が収束した後も、テレワークやEコマースなどはさらに広く社会に浸透していくことが想定され、お客様の働き方や、行動様式も、元に戻ることはないと考えています。」とまで述べている。その通りだ、乗客はもう元には戻らないのだ。
    では交通広告はこれからどうするべきか。これは媒体価値を別の視点から再定義するしかない。日本以外で急速に常識化している、よりリアルなメディア接触状況を可視化することである。携帯電話などの稼働状況、カメラやセンサーなどで駅や車内の状況を計測すること、あるいはインプレッションベースの広告媒体化することだ。
    こうした新たな定義の模索は着実に進行しつつある。JR西日本コミュニケーションズとLIVE BOARDは、インプレッション計測の実証実験を大阪駅で6月から実施している。またビズライト・テクノロジーが運用しているダイナミックビークルスクリーンは、埼玉高速鉄道内の電車内サイネージで同様のサービスをすでに開始している。
    インプレッションベースの広告配信はインターネットの世界では当たり前のことだ。OOHにおいても様々なテクノロジーを利用することで、従来よりも遥かに精緻なデータ取得やインプレッション計測がすでに可能だ。デジタルサイネージコンソーシアムでは、デジタルサイネージの新しい指標のあり方について、「OOHオーディエンス・メジャメント標準化検討ワーキンググループ」において昨年から検討を開始しており、年内を目処に一旦取りまとめを行う予定である。(Y.E.)

  • 香りを使ったデジタルコンテンツ

    香りを使ったデジタルコンテンツ

    私たちは日々様々な情報に触れている。デジタル化された媒体は、スマートフォンやタブレットといった小型なものからデジタルサイネージのような大型のものまで、実に様々な形をとっているわけだが、それに対し我々の五感では主に「視覚」や「聴覚」から情報を得ている。
    そこへ新たに「アロマサイネージ」という、デジタルから「嗅覚」へ情報を伝達する世界初のサイネージが登場した。AIの推薦アルゴリズムを基に、顧客へ勧める香水を「香り」で伝えるというものだ。詳しくはPR TIMESの記事を参照してほしい。
    このサイネージを開発した株式会社アロマジョインは「デジタル香りソリューション」という事業展開を行なっており、この技術は他にVRを使用したエンターテインメント等にも応用されているという。
    日常の中で、嗅覚によって行動喚起される場面は意外と多い。美味しそうな匂いが漂う飲食店には思わず入ってしまいたくなるし、旅行等で印象に残った土地の匂いは覚えているもので、食べたい・また行きたいという気持ちにさせられたりする。香りから如何に影響を受けているかを考えさせられるが、一方で筆者自身、デジタルといわゆる匂い・香りといった嗅覚は対極のような位置にあって、両者の距離を埋めることはなかなか難しいだろうと思っていた。香りは「そのもの」からでしか出せない、という要素が強いと考えていたからだ。
    だが、AIを使ってその壁を取り払おうとするこのソリューションは素直に驚いた。香りがあることによって、例えばVRでの旅行体験に香りを加える、飲食店のデジタル広告に料理の香りを加える(設置場所などでは難しいかもしれないが)等、これまでは主に「視覚」や「聴覚」に訴えていたデジタルコンテンツに「嗅覚」への情報が加わることで、より付加価値が高い体験が可能となるのではないだろうか。
    是非、今後の展開に期待したい(K.S.)

  • デジタルサイネージ
    NEWS解説

    Jコミがデジタルサイネージや交通広告を活用した「京都応援企画」および「QRでエール」プロジェクトを展開 記事元:宣伝会議 8月17日

    JR西日本コミュニケーションズ(Jコミ)は7月から、京都四大行事の映像を京都駅の大型デジタルサイネージで放映する「京都応援企画」を実施している。
    「いつもの行事はなくとも、こころをひとつに。~One Heart.One Kyoto.」をテーマに、デジタルサイネージを利用した応援企画を実施。過去の祭りや催事の様子を描いた映像を、JR京都駅の中央コンコース設置の「京都プレミアムvision」にて、期間限定で放映している。

    コロナ禍の影響は既に6ヵ月をこえて続いている。緊急事態宣言解除後も移動・観光の自粛、インバウンド需要の激減、店舗営業時間の短縮、イベントの規模縮小等々、多くの業界にその影響は及んでいる。デジタルサイネージが広く普及しているOOH(交通・屋外広告)業界でもその影響は大きく、回復の目途はなかなか立っていない。
    そのような状況下、サイネージを活用して「その時、その場所にいる人々に相応しいメッセージを伝える」展開が話題となっている。
    (株)ジェイアール西日本コミュニケーションズ(Jコミ)では、例年とは異なる形の開催を余儀なくされている「京都四大行事(葵祭、祇園祭、五山の送り火、時代祭)」の映像を京都駅の大型デジタルサイネージ「京都プレミアムvision」で放映する「京都応援企画」を7月から実施している。同企画は7月6日から京都駅ビルグループ5社協賛による「祇園祭 京都駅ビルグループ版」に加えて、8月17日からは、京都の地元企業14社協賛による「京都四大行事 地元企業版」の放映を開始。「いつもの行事はなくとも、こころをひとつに。~One Heart.One Kyoto.」をテーマに、京都の人々の気持ちを応援することを目的としている。
    また同社はペーパーメディアでも2020年9月7日から交通広告を通じて新型コロナウイルスと闘う人々をみんなで応援する「QRでエール」プロジェクトを2021年3月28日までの期間限定で開始した。中づりポスターや駅ポスターにキャンペーン用のQRコードを掲載した専用フォーマット(キャンペーンフレーム)を設定し、鉄道利用者のQRコードのアクセス数(エール数)に応じて新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の研究・開発に取り組む大学・研究機関等の団体に寄付を行う取り組みである。
     
    なかなか終息の兆しが見えないコロナ禍の中で、ここにご紹介した交通広告の取り組み以外にも屋外広告や商業施設、ホテル等々、様々なロケーションでデジタルサイネージは必要な情報を伝えたり、人々を勇気づけたりしている。こんな時期だからこそ、改めて身の回りのサイネージに注目していただきたい。(T.Y.)

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