関係者は四の五の言わずにABBA Voyageを体験せよ
ロンドンで開催されているABBA Voyageを体験してきた。これはABBAtarsと名付けられたアバターによるライブ公演で、バーチャルとリアルの境界を完全に超えた革新的なエンターテインメント体験を提供している。
現場で体験しないと全く通じないのを承知で頑張って書く。
活動休止から40年以上経ち、メンバー全員が70歳を超えたABBAは、独自の方法で音楽への情熱を蘇らせた。その制作プロセスは驚くほど緻密で、160台のカメラを使用し、5週間かけて全20曲分のモーションパフォーマンスデータをキャプチャした。しかしながら現在の彼らのパフォーマンスは「キレ」に欠けるため、若いダンサーによる「ボディダブル」によるキャプチャデータも活用し、若かりし日のABBAを完璧に再現している。
最も印象的なのは照明技術だ。500台のムービングスポットライトと精密に設計された光の演出により、観客は仮想と現実の境界を完全に見失なってしまう。ジョージ・ルーカスのILM(Industrial Light & Magic)が手がけた演出は、6500万ピクセルのLEDウォール、同期したムービングライト、そして効果的に配置されたレーザー光線を駆使し、驚くほどリアルな体験を生み出している。
映像技術的にはインカメラVFX技術をライブに持ち込んだものだ。 我々が見ているのは背景にあるLEDウォールに表示される2Dの映像である。表示されている映像はインカメラVFXと同じで、最背景のCGと実際の人物の生カメ映像ではなく、ABBAtarsを手前に配置した状態でUnreal Engineでレンダリングをしている。
幾つかの課題も存在する。例えば、ABBAtarsはLEDに表示されている映像に過ぎないので、前後方向への移動が制限される。左右の移動も舞台袖まで及ばない。しかしながら映像演出と楽曲単位での構成によってこれを回避することを試みている。
総製作費は専用アリーナの建設費を含めて約260億円に達している。しかし、もっとも驚くべきことはこれが技術の誇示ではなく、むしろその技術が完全に隠蔽され、純粋な感動的体験に昇華されている点だ。実際にプロフェッショナルな観客でさえ、最後まで本物とデジタルの区別がつかないほどの完璧な再現性を実現している。
類似の試みと見なされるのであろうラスベガスのSphereは、要するに超巨大で超高解像度のドーム型映画館でしかないのだが、ABBA Voyageは全くそうではない。単なる映像体験を超えていて、さらにそれはリアルでは体験不可能なのである。
何度も繰り返すが、これは体験しないとわからない。デジタルサイネージも含めたxRや映像技術の関係者はとにかく必見。なぜなら今われわれに見えてきているゴールが、ここにはすでに存在しているからだ。これを体験すれば無駄足を減らせる。
(Y.E.)