世界最大のLEDディスプレイの展示会ISLE 2024レポート
ISLE 2024が中国深センで開催された。LED実装技術の進化と高精細化が目立ち、0.4mmピッチの8K解像度ディスプレイが出展された。一方で、ディスプレイの形状の多様化が注目を集めたものの、新しいユースケースや価値提案が不足していた課題が浮き彫りになった。LED産業の更なる発展には、優れた製品に加え、新たなユースケース開拓とコンテンツ制作の革新が重要な鍵となる。
世界のLED産業の中心地・中国深センで、ISLE 2024が2月29日から3月2日にかけて開催されたので、現地の様子をレポートする。まずはその開催規模に圧倒される。出展社数は1000社を超え、来場者数は約8万人に上る大規模な展示会となった。東京ビッグサイト全館と同じが8万平米を使用して開催され、日本での類似イベントであるDSJ(デジタルサイネージジャパン)の10倍の規模ということになる。これだけでも、世界のLEDディスプレイのほとんどすべてを生み出している、深センのLED産業の規模がおわかりいただけると思う。
展示の中心は、LED実装技術の進化と多様化であった。従来のDIP、SMDに加え、GOB、COB、MIP(超小型LEDパッケージ化)など、様々な実装手法が登場している。これらは製造コストと製品の特性を勘案し、用途に合わせて使い分けられていた。また高精細化の流れも目を引いた。0.4mmピッチの8K解像度ディスプレイが出展された。
こうしたLEDの高精細化に関して、複数のメーカーの技術開発のトップとディスカッションする機会を得た。現状ではLEDディスプレイが数年後に0.1ミリ以下になるということはなさそうである。そこに行くためにはLEDチップを物理的に表面実装、ボンディングするのではなく、印刷のようなやり方で実現する必要があるという。つまりLEDのピクセルピッチは0.2、3ミリくらいまでが、当面の限界値なのではないだろうか。
ではこのあたりの数字はどういう意味を持っているのかを考えてみる。参考までに家庭用テレビを想定したディスプレイに必要なピクセルピッチを計算すると
・4Kディスプレイ
50インチ 0.17mm
80インチ 0.28mm
・8Kディスプレイ
50インチ 0.14mm
80インチ 0.23mm
となる。この数字であれば実現性も高く、家のテレビがLED化される方向に向かうのではないだろうか。実際サムスンやLGなどがマイクロLEDを謳った100インチクラスのテレビをCESなどで発表している。
また注目を集めたのが、ディスプレイの形状の多様化だ。球体をはじめとする異形のディスプレイや、シースルー、フレキシブルなタイプが増えてきている。しかし、これらの具体的なユースケースや新しい価値提案については不足している課題があった。VR/AR/XR分野でのバーチャルプロダクション需要の高まりを受け、LEDウォールは多数展示されたが、実際の映像制作デモは少数に留まっていた。
LED製品自体の技術力は確実に向上している一方で、新しいコンテンツ制作手法やユースケースの提示が不足していた。先端的な製品は生み出されているものの、それに伴う斬新な価値提案が乏しく、LED産業の更なる発展に向けた課題が浮き彫りとなった。これからは優れた製品に加え、新たなユースケースの開拓が重要な鍵となってくるだろう。
ISLE2024を通して感じられたのは、製品の高度化と並行して、コンテンツ制作の新しい手法やアプローチの模索が必要とされていることだ。LED技術の可能性を最大限に引き出すには、ハードウェアとソフトウェア、つまりコンテンツ制作の両面から革新的な取り組みが求められる。これが実現できれば、LED産業はさらなる飛躍を遂げられるはずである。
そのためには、LED映像を活かしたコンテンツ制作分野への人材育成や技術開発の投資が不可欠だろう。LED特有の表現力を最大限に生かすための専門的なスキルと知見を持つクリエイターの存在が重要になってくる。また、制作現場で実際に使えるようにするための、実践的なツール開発も求められる。LED映像は従来の平面ディスプレイを超えた自在な表現が可能であり、そこに適したクリエイティブな制作手法を確立することが、この産業の可能性を切り拓くカギとなるはずだ。展示会が示した課題は、ハード面の技術革新に合わせて、ソフト面でもイノベーションを重ねていく必要があることだ。(Y.E.)