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Vol.112

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  • 撤去された羽田空港の大型サイネージに思うこと

    撤去された羽田空港の大型サイネージに思うこと

    ANAが羽田空港の国内線の保安検査場にあるフライトインフォメーションを表示している大型デジタルサイネージを撤去すると発表した。これについてTwitterでは筆者の予想を超える反響があったようだ。

     2023年1月30日の時点では、4つある保安検査場(A~D)のうちすでにDのサイネージが使用を停止していた。コロナによる減便の影響だろうか、この保安検査場Dは現在使用されていないので影響はない。この時点では撤去ではなく、消灯してカバーを掛けられた状態だった。2月9日までに4箇所すべてが撤去されるとのことだった

     ではこのサイネージにはどういう情報が表示されているのか、残存していたもので確認してみよう。中央の搭乗ゲートマップはサイネージではなく内照看板だ。現在位置から各ゲートまでの位置関係がわかる。その両サイドにLEDディスプレイがあり、フライトインフォメーションが表示される。左のディスプレイから出発定刻順に表示されて右側のディスプレイに続いている。左右の見た目には大きな違いはないので、右から左に出発順に並んでいることは初見では気が付きにくい。

     そして右側のディスプレイには定期的に自社の関連情報が挿入される。ということは右側のフライトインフォメーションを見ている人にとっては、途中で「余計な情報」が割り込んでくることになる。この関連情報の中身は、スマホでチェックインなどができることを伝えている。この情報は乗客にとっての重要度合いはかなり低いと言わざるを得ないのではないだろうか。

     さて、本件のディスプレイにたどり着くまでの利用者の動線を考えてみよう。羽田の場合は電車やモノレールはB1Fに、バスは2Fに、駐車場からはエレベーターで2Fの出発階フロアに向かうことになる。今はカウンターでチェックインする人は少ないが、ここまでの動線で、フライトインフォメーションを得る場所はほとんどなく、あっても40インチほどの端末が何箇所かにあるだけだ。預け入れ荷物があると有人カウンターを利用するが、最近は無人の預け入れ機を使うことも多いので搭乗便の遅延に関しての人的なコミュニケーションが存在せず、フライトの変更や遅延の情報は自然体のままでは案外得られない。

     今回ANAが検査場でのデジタルサイネージによるコンタクトポイントを廃止する背景には、すべてをスマホで完結させたいという思いがあるようだ。ANAは2022年5月から、航空券・ホテルの予約やチェックインなどがスマホで完結できる「ANA Smart Travel」を推進している。サイネージと同じ情報は「ANAアプリ」でも確認でき、急な搭乗口の変更や出発の遅延にも対応する。だがスマホはわざわざ見る必要があるのが決定的な相違点だ。デジタルサイネージであればこの手間がない。たかがひと手間、されどこのひと手間は面倒だ。

     空港では他の交通機関と比較して不確定である運行情報のニーズは高い。こうしたセレンディピティな情報提供はスマホでは代替しにくい。デジタルサイネージのメディア特性とその場所で情報を必要としている人の状況を考えることは、非常に重要ではないかと改めて感じた。(Y.E.)

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