DSC EXPRESS
Vol.100

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  • パラレル・リアリティがデジタルサイネージを変える

    パラレル・リアリティが
    デジタルサイネージを変える

    デジタルサイネージとは、ディスプレイのような電子的な表示装置を使うわけだが、この表示装置において、いま本当に革命的なことが起ようとしている。デジタルサイネージもこれまでとは全く異なる、新たなフェーズに入る日も遠くはない。

     デルタ航空は、2022年6月29日からデトロイト・メトロポリタン空港にて、パラレル・リアリティの試験運用を開始したので、出張時の帰路に遠回りをして現地で実際に体験をしてきた。これは周りで何十人もの人が同じディスプレイを見ていても、同時に全員に対して異なる情報を表示することができるという、魔法のようなディスプレイなのである。

     最初に動画をご覧いただきたい。筆者自身が登録して撮影しているので、筆者のフライトインフォメーションだけしか表示されない。これだけ見ていると普通のことにしか見えないが、実は周りの他の人にはこの情報は見えていないし、逆に周りの人の情報は筆者には見えないのである。これは現場で実際に体験しないと、映像や写真では感覚として伝わりにくい。

     従来のLEDディスプレイのピクセルは単一で幅広い光源であったのに対して、パラレル・リアリティーのLEDピクセルはビーム方向を独立して制御可能な光源なのである。対象者の方向に向けてだけ光っていると考えればいい。そのため人同士がディスプレイに対して鉛直方向に重なっている場合を除いて、目の位置が5センチも離れていれば異なるものを表示して視認することができるのである


     体験方法は非常にシンプルで搭乗券をスキャンするのみだ。スキャン場所の天井部分に設置された2眼デプスカメラで搭乗者の身体をトラッキングして、その現在位置をリアルタイム解析する。トラッキングできるエリアはここでは10✕15メートルほどの範囲内だ。

     これまではこうした自分が搭乗する便のフライトインフォメーションは、空港のサイネージディスプレイで複数の情報から自分で探し出すか、スマホアプリで確認するかのどちらかであった。ただ、成田空港などでは搭乗券をスキャンするだけでゲート情報を表示してくれる端末がすでに設置されている。搭乗券をスキャンするという行為が必要なのであれば、成田の端末と今回のパラレル・リアリティは大きな差はないとも言える。

     実はそうした旅行者のUXもしっかり考慮されていて、デルタ航空はTSA(米運輸保安庁)と提携し、顔認証技術とパスポート番号、TSAプレチェックまたはグローバルエントリー会員資格を使用して、空港内をシームレスに移動することができるようにする実験を行っている。実際に筆者もデトロイトからの羽田便に搭乗する際には、搭乗ゲートでは搭乗券もパスポートも一切提示することなく、顔認証だけで「顔パス搭乗」をすることができた。

     技術的にパラレル・リアルティーは、1つのディスプレイのみで視聴位置さえ異なれば100通りの異なる情報を表示することが可能だ。これをパーソナライズされた情報の表示に使うのか、パーソナライズされていないが、視聴位置によって内容が異なるパラレルディスプレイとして使うのかで随分と展開の方向性が異なると思われる。パーソナライズされた情報では、今回のようなフライトインフォメーションは最適な事例と言えよう。個人特定はなしで、動き回ると見えるものが変化するものと位置付けると、それはエンタメ方向になっていくのだろう。これからアリーナ、ショッピングモール、カジノ、テーマパークなどへの導入も近いようで、まもなく日本国内にも登場するようだ。(Y.E.)

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