「つくる責任・つかう責任」とデジタル技術
東京2020大会、開催には賛否両論あったが、特にパラリンピックでは、Diversity&Inclusion(多様性と包摂)が可視化された。一方、SDGsの実現を掲げたが、課題も残る。次は、本当の意味での社会実装が求められる。
世界的なスポーツの祭典が終わった。聖火には初めて水素が使われ、競技会場や選手村の電力も再生可能エネルギー、二酸化炭素を排出しない燃料電池車も導入した。メダルの原料もリサイクル金属、表彰台は使用済みプラスティック、選手村のベッドは段ボール、など工夫も見られたが、弁当廃棄や、食材のアニマルウェルフェア不適合などの問題もあった。
そんな中、個人的に残念だったのが、日本文化の代表格として、またSDGsを象徴するものとしての「着物」をほとんど目にすることがなかったことである。
そこで、ここでは7/14-19に、大阪の阪急百貨店で行われた「KIMONO クリエイション」と銘打って行われたイベントについて紹介したい。
詳細は、https://www.hankyu-dept.co.jp/honten/h/artstage_kimono_creation/に譲るが、まさにテーマはSDGsである。
このイベントの仕掛け人である「ゴフクヤサン・ドットコム」の代表、居内氏に聞いた。
■なぜ、こういうイベントをすることになったのですか?
「環境へ配慮した取り組みが世界的に高まる中、店舗での商品サンプルや在庫廃棄の課題に対して、ファッション業界の「つくる責任・つかう責任」を共に果たすことによって、これからも誰もがサステナブルな仕組みの中で多様性あふれたファッションを楽しみ続けられる世界を実現したいと、阪急阪神百貨店様とセイコーエプソン様との協力を得て行ったこのイベントは、セイコーエプソン様のデジタル捺染印刷とプロジェクションを活用して売り場作りをしました。」
■具体的にはどんなことをしたのでしょうか?
「夏本番に着たい、浴衣デザインを一般公募し、結果、個性あふれる95の作品が集まりました。これらすべてをバーチャル展示することで、展示サンプルの数を抑えながらも、お客様に楽しんでいただけるサステナブルな売り場と、デジタル捺染印刷・プロジェクター・大判印刷のコラボレーションで商品を受注生産できる新たな生産から販売のスタイルを創り上げました。」
■お客さまからの声はどうでしたか?
「自身がデザインした浴衣が百貨店で展示・販売されるという経験が初めての方が大半で、実際に見に来られたクリエイター様からもとても喜んで頂けました。
企画当初、応募作品を一点一点制作することも考えましたが、それだけでかなりの製作コストが掛かってしまうので、実現は出来ませんでしたが、バーチャル展示により低コストで展示を行うことが出来ました。
また、プロジェクターを利用したバーチャル展示は実寸で映し出せるので、手にとるようにイメージが伝わり、机の上のモニターで見ただけではわからない気づきが沢山あったとのことでした。」
■プロジェクションマッピング×店舗、とか、プロジェクションマッピング×アパレルの最新動向と今後の可能性や展開予定について教えてください。
「今回の仕組みは、受注生産が基本になってくるため、売場でエンゲージメントを高める施策も必要になってきます。セイコーエプソン様が持つ光と映像をコントロールするプロジェクション技術、デジタル捺染技術術のコラボレーションがとても強みを発揮したと感じています。
これによりデジタル捺染技術で表現した友禅は手の届く値段で買え、人々が着物に触れる機会を増やしてくれます。」
アパレルの世界では、品物を潤沢に店舗に並べ、品切れを起こさないよう、在庫を豊富に持つことが求められる。それらが過剰在庫となっても、ブランド価値を棄損しないために、多くは焼却や埋め立て処分になり、環境破壊にも繋がる問題となっている。
プロジェクション技術とデジタルプリントの活用はそうした「ロス」を削減することができるだろう。さらに後継者不足などにより、もう作ることができなくなってしまった着物などのデザインをデジタルアーカイブしてそれらを再現し、リーズナブルな価格で提供することも可能だ。
生産、流通、小売などの現場にもっとデジタル技術が実装されれば、新たな顧客体験を実現するだけでなく、SDGsの達成にも近づくと実感させられる取り組みであったと思う。(M.I.)