サイネージの向こうにリアルがある
デジタルサイネージの使い方はさまざまだが、ディスプレイへの向き合い方の変化に伴って、「パブリックな場所で遠隔地のリアルとつながる」ことが、俄然現実味を帯びてきた。
3年前の冬、ターミナル駅前のマルシェで野菜を並べているテーブルの上に小さいサイネージを置いて、れんこん畑の動画を流してみた。並べてあるれんこんの当日朝の収穫風景を、スマホで撮影した撮って出し動画である。泥の下に埋まっているれんこんを、長いホースから噴出するジェット水流で掘り出す様子はなかなか好評で、れんこんはけっこう売れた。
ので、次は畑とマルシェをリアルタイムでつないで、ダイレクトに会話できるようにしよう、きっと楽しい!・・と企画してみたのだけれど、残念ながら、結局実現しなかった。一番のハードルは、「(生産者さん、マルシェ常連さん共に)ディスプレイに向かってしゃべるのは、ピンとこなくて、ちょっと恥ずかしい、やっぱり対面の方が良いよね」ということであった。予算の付く実証実験ならともかく、技術と設備は用意できても、人は本当に欲しくないもののためには動かない。
ときは移って2021年。
私たちは、ご存じ「zoom」のようなツールを日常的に使うようになった。
ガンガン使っている人たちはすでに「zoom疲れ」しているという説もあるが、それは前の方を歩いている人たちのことだ。この状況で「遠くの人とリアルに出会う」ことが難しくて、楽しいことが足りなかったり、ちょっと寂しいなと思っているたくさんの人たちに、ディスプレイ越しも案外良いよ、北海道のとうもろこし農家さんや沖縄のパイナップル農家さんにも会えるし、と伝えるチャンスがやってきたのだ。zoom会議をやったことがない人も、テレビ番組で、「〇〇さんのご自宅にカメラを送ってありますので、ご自宅からの参加です」というシチュエーションは見慣れてきたはずだし、歩道にカメラとマイク付きのディスプレイを置いて街頭インタビューをやっている番組もあるでしょう? だからきっとディスプレイ越しの会話へのハードルは下がっていて、何より「ディスプレイ越しにでも出会いたい気持ち」もふくらんでいる。
今、解決できない問題が悲しいぐらいある日々の中、私たちは手に入れたチャンスを活かして1ミリずつでも良い方向に進めるかもしれない。ということで、草の根サイネージを進めていきたいと思う。
ところで、写真の画面は今年の4月26日にzoomが発表した「immersive view(没入型ビュー)」で独自背景を作ってミーティングした様子である。Immersive viewは、複数のメンバーが共通の仮想背景の中に並んで参加できる機能だ。(4人は各々別の場所から参加。りんご農園は仮想背景。)
https://blog.zoom.us/ja/introducing-zoom-immersive-view/
それだけのことで、はたして「没入」した気持ちになれるものだろうか、と、やや疑いながら実施してみたのだが、なかなかどうして。同じ背景の中に並びながら会話をしてみると、この場を一緒に楽しく過ごそうという気持ちが醸成されてくる。参加せずに見ている側にもその雰囲気が伝わってくるのも、意外におもしろい体験である。
この機能を使ってウェビナーも実施してみた。映像がパーフェクトでなくても良い、これをサイネージに乗せてみたいという気持ちになる。人は技術がこなれるとともに、いやおうなしに進化するのかもしれない。(Y.K.)