ブラジル屋外広告キャンペーン事例
『すべての人ためのOOH (OOH FOR ALL)』
DAI技術を活用し、視覚障害者の存在を検知すると音声が流れるブラジルの屋外広告の事例をご紹介する。
ブラジルで実施された屋外広告キャンペーン事例をご紹介する。
本来は、誰の目にも触れる機会がある屋外ではあるが、基本的に音声が出ない広告を、視覚障害者が目を向けることはない。広告の訴求内容は、屋外にいるすべての人たちに向けているにも関わらず、数字にすると(ブラジルにおいては)約20%の人たちに、広告が届いていないことになる。
視覚障害を持つ人々をサポートするDorina Nowill Foundationの協力を得てJCDecaux Brazilでは、ブラジルで初となる、音声付き広告キャンペーンを実施した。広告パネルの前を視覚障害者が通ると、AIを活用したテクノロジーによって、障害者が手に持つ杖を検知する。通常は音声なしで掲出されているデジタル広告が、検知された際に音声付に切り替わる仕組みだ。


 
消費財のブランドを持つ複数の広告主の協力を得て、実験的にまずは、地下鉄2か所と空港で実施した。結果として、地下鉄を利用する視覚障害者の92%にリーチ、35のメディアで記事に取り上げられたことで、PRバリューとして2.3百万人に伝わった。後、広告ブランド数も増やし、市街の広告パネルに展開を拡大した。 

 
数字に加え、関係者からのコメントが印象的だ。
ハンバーガーブランドの広告主は「私たちのお店ですでに販売しているサービスを、街にいるすべての人に提供できるようになるのはうれしい」、トイレタリーブランドの広告主は「広告業界全体として、あらためてキャンペーンと広告フォーマットをもっと考えていく機会になる」と述べている。
メディアは「文字通り、コミュニケーションのバリアを取っ払った」、「街をすべての人に開放することにつながった」などのコメントを寄せている。
一番印象に残るのは、視覚障害をもつ女性の「自分が一員として受け入れられているように感じる (“I feel included”)』というコメントだ。広告が社会にとってより有益になる、そのために音を使う。OOHがSustainability mediaと言われるに値する事例だと感じた。補足。6月に開催されたカンヌライオンズ2025で、屋外広告部門でショートリストに残った。キャンペーン動画はそちらから参照できる。https://www.canneslions.com/
個人的な意見ではあるが、音と屋外広告のトピックは、様々な要素を含んでいる。ブラジルの事例のように、音を出すことによって、健常者と同じ情報が障害者にも提供されるという利点がある一方で、過剰または不要な音は、不快感をもたらすのみならず、交通安全の点からも懸念がある。と同時に、音があることでアテンションが上がる、という広告効果の一面も外せない。
(Y.T.)