AIがもたらすデジタルサイネージの未来
派手な映像より「今、自分に必要な情報か」が鍵。AIと人の共創で進化するサイネージは、心に届くコンテンツの未来を切り開く──。
今、街にはデジタルサイネージがあふれている。しかし、サイネージ業界に入って間もない私が、これまでじっくり見たことがあるサイネージといえば、病院待合室の案内や、ファストフードのメニューボード、ショッピングモールの館内マップなど、それらはその時に自分が欲しいと思う情報が表示されているものであった。駅構内の企業広告や、派手な映像が切り替わるLEDビジョンなどは、目に入っているはずなのに、ほとんど記憶に残っていない。思えばテレビCMも同じだ。自分が必要としていないタイミングでは、どれだけ派手でもスルーしてしまう。つまり、情報そのものより、それが「今、自分と関係があり、必要な情報か否か」がとても大事なのだ。
例外的に今でも鮮明に記憶しているのは、新宿駅東口の巨大猫の3D動画だ。ニュースでも一時話題になったが、それだけ自分の中でインパクトがあったのだろう。こうした、情報を届ける側と受け取る側のすれ違いを、AIは変えることができるのだろうか。

AIは今、サイネージの周囲にいる人の属性や行動、時間帯、天候などのデータをリアルタイムで解析し、「その場にいる人」に「今必要とされる情報」を選んで表示できるようになりつつある。そして、どんなコンテンツに人が反応したか、立ち止まったか、どれくらい見たか、目線がどこを向いたか、といった行動も蓄積・分析し、何が届いたのかを作り手にフィードバックすることも可能だ。これによって、サイネージは単なる映像表示装置ではなく、「届け方を学び、進化するメディア」になり始めている。
ただし、どれだけ届け方が進化しても、最終的に人の心に残るのは中身の力だ。たとえば、あの3D猫のように一度見たら忘れられないクリエイティブなコンテンツや、自分に寄り添う言葉、思わず笑ってしまう演出。そうしたコンテンツは、やはり人の創造力や独創性、感性が生み出すものだ。
 
これからのデジタルサイネージは、AIが「どう届けるか」を担い、人が「何を届けるか」を磨く、そんな共創のメディアになっていくだろう。それが、AIと人の力を組み合わせた、新しいサイネージの未来だ。
技術が進化しても、心を動かすのはいつだって人の創造力。その力を最大化し届けるために、AIはこれからもっと欠かせない存在になっていくにちがいない。
(S.M.)