DSC EXPRESS
Vol.203

DSC EXPRESS Vol.203をお届けします。
毎月5日、15日、25日発行です。どうぞよろしくお願いいたします。

  • デジタルサイネージと体感音響が切り拓く未来

    近年、注目を集めている「体感音響(ボディソニック)」は、耳だけでなく身体全体で音を感じる音響技術です。通常のスピーカーでは再現しにくい低周波や振動を使うことで、音楽や音声を“体感”できるのが特徴です。映画館の振動シートや、ライブハウスの低音が胸に響く感覚に近いですが、今回はデジタルサイネージでの活用方法をご紹介します。

     

    体感音響とは何か

    体感音響システムの専門メーカーとして多くの実績と豊富な経験をお持ちのアクーヴ・ラボ社に体感音響システムについてお伺いした。

     身体は水に満たされた皮袋のようであると言われ、水袋をスピーカーの上においてスピーカーを再生すると音の振動は水袋のどの部分でも感じることが出来ます。もし、人間が皮袋の環境の中に置かれた場合、音は水と同じ現象のように体を通して移動し、身体の表面に振動を感じます。身体のすべての細胞は体を通して移動する音波により振動を感じ、体内マッサージを受けていると考えられます。お子さんが音楽振動を受けると誰もが柔和な顔つきになるのは母親の胎内の環境下におかれ、体感振動を通してリラクゼーションを感受するのではないかと考えられます。

     人は音楽を通常、耳で聞きますが音楽のメロディ・リズムなどと共に振動を身体に感じると、音楽の持つ要素である「感動感・恍惚感・リラクゼーション」を感じるのは前述したことの延長線上にあるとされています。

    デジタルサイネージにおいて、なぜ音響が重要なのか

     デジタルサイネージは映像が主体と思われがちですが、実は音響が大きな差別化要素になります。視覚+聴覚を組み合わせることで情報の記憶・認知率が高まることは多くの研究で示されています。また、音は空間の印象や動線誘導にも活用可能です。さらに体感音響を組み込むことで、没入感やブランド体験を劇的に向上させられます。

    そのキーとなるデバイスがトランスデューサー(振動発生ユニット)です。

    アクーヴ・ラボ社で開発されたバイブロトランスデューサは、今まで困難とされていた40Hz以下の音域を再現可能にし生理的に心地良いとされる20~50Hz帯域を十分に再生できるそうです。

     
    デジタルサイネージ×体感音響の基本構成

     大きく以下の要素で成り立ちます:

    ・ディスプレイ(LEDビジョン、液晶など)
    ・コンテンツ配信システム(クラウド・オンプレ問わず)
    ・ネットワーク環境(有線・無線)
    ・音響設備(スピーカー、骨伝導・振動トランスデューサーなど)
    ・インタラクティブ要素(センサー、AR/VR連動など)

    ここに「体感音響デバイス」を加えることで、映像と音のシンクロによる一体感を演出できます。

     
    デジタルサイネージと体感音響の活用イメージ

    ① 商業施設のブランド演出
     大型LEDビジョンの前に振動付きベンチを設置し、映像と低周波音を連動。商品の世界観を「座って体感」できる新しい広告手法が可能になります。たとえば、アウトドアブランドなら風や波音を低周波で演出し、自然にいる感覚を提供できます。

    ② 観光地やイベント
     観光案内サイネージに床下トランスデューサーを埋め込み、歩く場所によって異なる振動や音響を感じられる仕掛け。地域の歴史や文化を「体験型」で伝えることができ、来訪者の記憶に残ります。

    ③ 鉄道・空港での誘導
     音の指向性スピーカーと低周波振動を組み合わせ、案内音声だけでなく身体感覚でも方向を伝える試み。視覚障がいのある人へのアクセシビリティ向上としても期待されます。

    ④ 医療・リラクゼーション施設
     デジタルサイネージに自然映像+低周波音響を組み合わせ、待合室や施術室に癒し空間を構築。振動や重低音で呼吸を整え、緊張緩和やリラクゼーション効果が期待されます。

     
    既存音響設備改善のヒント

    ・低コスト導入:既存スピーカーにトランスデューサー(振動発生ユニット)を追加するだけでも体感音響を実現可能

    ・音の指向性を工夫:超指向性スピーカーで周囲に迷惑をかけずにターゲットだけに音を届ける

    ・コンテンツ制作の段階で音響を設計:映像と音響の同期を最初から考えると効果倍増

     
     デジタルサイネージは「見るもの」から「五感で感じるもの」へと進化しつつあります。体感音響はこの変化を象徴する技術であり、ブランド体験の差別化やアクセシビリティ向上に大きく寄与します。今後は小規模な実証実験から段階的に導入する企業が増えるでしょう。

     デジタルサイネージを取り巻くテクノロジーに、音に関するメソッドを加えることで表現の幅は今後もますます広がりを見せていくでしょう。
    (N.Y.)

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