韓国ソウルにある商業施設のデジタルサイネージ事例
2025年1月に視察した韓国ソウルのサイネージについてはDSC EXPRESS Vol.178でも述べているが、今回は商業施設の店舗周りにおけるユニークなデジタルサイネージの事例をいくつか紹介する。
まずは、明洞にある新世界百貨店本店。外壁をLEDでサイネージ化した「新世界スクエア」と呼ぶ「メディアファサード」が特徴だ。幅71.8m、高さ17.9mの巨大L字型で過去の新世界百貨店(左)・クリスマス動画・時報動画のほか、一般広告、3D動画広告(右)なども放映されていた。今や、ソウルの人気スポットで、昨年末には訪問者数が前年同時期に比べて約59%増加し、優れたコンテンツが増えたことで滞在時間も50%増加したなど集客効果もあったようだ。(出典:https://www.afpbb.com/articles/-/3549220)
スマホで撮影した時に課題となるフリッカー(点滅)現象やイメージ干渉現象についても、最小化するよう7,680Hzの高リフレッシュレートにして対応している点も韓国のサイネージ事業者の周到さを感じる。

大型の「メディアファサード」の例としては、透過型LEDを使った「ロッテヤングプラザ」(左)やWAVEの3Dコンテンツで有名になった「K-POP SQUARE MEDIA」(右)もある。

規模は違うが一般の路面店でも、ファサード(facade)=店舗の正面、道に接している面にサイネージが設置されているのを見ることができた。韓国のヘルス&ビューティストアNO.1の「OLIVE YOUNG(明洞フラッグシップストア)」では、正面入り口の上にはLEDサイネージがあり、その上にリボンビジョンのように細長いサイネージにロゴを左から右へ走らせていた。また、昨年オープンした日本の「スシロー明洞聖堂店」では、入り口付近に横長の大型サイネージを設置し、ロゴや寿司の映像を放映していた。

ロッテワールドタワー・モールを歩いていると、炎の映像が見えた。てっきり焼肉店かと思ったが、それは高級手作りバーガーのレストラン「GORDON RAMSAY burger」だった。一番高い商品は韓国限定で最高級韓牛のパテやトリュフ入りペコリーノチーズを使用とのこと。価格はなんと14万ウォンもする。ファストフードとは全く異なる世界観を演出していたのも頷けた。

舌がトレードマークで韓国の若者に人気のおしゃれなカフェ「TONGUE」店頭には、縦長の柱面を使ったLEDサイネージがあり、コンテンツ&見る角度によっては3Dに見えるものもあり(右)、通行者の目を惹きつけていた。

スポーツシューズ&アパレルのプレミアムブランド「HOKA」の店内には、ランニングマシンを透過型LEDサイネージ(内外両面)で囲ったコーナーがあった。

韓国発のアパレルブランド「ADER ERROR」では、柱を全面LEDサイネージ化していた(左)。天吊り設置のサイネージは、液晶マルチで使われる例が多いが、若者に人気のメガネショップ「Look Optical」ではLED化されていた(右)。

韓国の10・20代向けのファッションブランド「MMLG」では、ショーウインドウの左側と奥の面を使ったサイネージがあった。総合アウトドア・スポーツウェアメーカーの「Columbia」の店では、エントランス付近の壁を全面サイネージ化しダイナミックな演出をしていた。

仁川空港広報館(ツーリスト センター)では、窓に18面の透過型のO LED(有機ELディスプレイ)を使い、国家遺産を素材とした映像を放映していた。韓国のストリートファッションを中心に扱うセレクトショップ「Supy(スーピー)」では、円柱形のLEDサイネージでブランドロゴを回転させて見せる展開をしていた。
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以上、いくつかピックアップして紹介したが、参考にしてみてはどうだろうか。
大阪・関西万博の韓国パビリオンにも設置される巨大「メディアファサード」(縦10m、横27m)は注目ではあるが、冒頭に述べたようなものが韓国の市街地に設置できたのはそこが「屋外広告自由表示区域」だからだ。これは、現状ある屋外広告物の形や大きさ、色や設置方法などの規制を、特別に緩和する制度になる。日本同様、韓国でもこれまで都市景観を損なうものとみなし、規制する施策を取ってきた。しかし一方で、エリアは限定しているが、国としてデジタルサイネージ産業を育てるという意図や、屋外広告を地域のランドマークとして広報し、賑わいを創出し、観光客を集める手段として活用しようとする動きも盛んになっている。特に明洞地区では、今後も大型のメディアファサードやメディアポールなどが段階的に設置される予定で目が離せない。日本でも「規制から活用へ」と屋外広告物に対するパラダイムを転換する必要があるのではないだろうか。
(K.Y.)