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Vol.081

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  • 5G-MBSで広がるデジタルサイネージの可能性▲参考図;5Gと光ファイバーとTVによる都市や地域の新たな統合サービス(MRI)

    5G-MBSで広がるデジタルサイネージの可能性

    かつて華やかに謳われたような5Gならではのアプリケーションやサービスは、デジタルサイネージの世界でもいまだその登場に時間を要しているようだ。今回は5G-MBSに注目したい。

     5Gの国際標準化活動が新たなフェーズに入り、デジタルサイネージシステムで活用できる仕様が拡張されようとしている。

     5G対応のスマホが普及し始め、新しい高速通信としても都市部から徐々に広がりつつあるが、かつて、華やかに謳われたような、5Gならではのアプリケーションやサービスは、デジタルサイネージの世界でも、いまだ、その登場に時間を要しているようだ。

     そうした中、5Gの国際標準作業を進める3GPPでは、2022年度からリリース18の検討が始まり、中でも、「MBS;Multicast Broadcast Services」のサービス拡張作業が注目されている。

     ユースケースとしては、渋谷の特定5Gエリア内の全端末、あるいは、グループ化した端末群(もちろん、デジタルサイネージスクリーンとユーザーのスマホスクリーンを含める)に同一のゲームスクリーンを大きく映し出しつつ、各ユーザーは個々のインタラクションサービスを並行して楽しむことが可能となる。街空間をメタバース化してしまうことができるというわけだ。並行作業されている「XR and media service」の成果が実装されると、さらに魅力的に様々なデバイスを連携させたサービスも可能となる。これまでの実証実験例を参考にすると、渋谷エリアで1万ユーザーというスケールでも実現できるようだ。

     今のところ、MBSの典型的なユースケースとして想定されているのは、自動運転車両へのプログラムデータや近隣の時空間データの一斉配信などだ。一定エリア内や、数分後にすれ違う車両同士が、各自のAIを駆使してスムーズに計算して協調動作を可能とするためのベースデータ等を、事前に逐次配信しておくというイメージに近い。このユースケースの車両を自律移動型のロボットに置き換えてみると、街を楽しむための企画イメージは大きく膨らむのではないだろうか。

     ちなみに、このMBSのWI/SI(Work Item/Study Item)のラポーター(報告者)はHuaweiが務めている。さきの北京オリンピック開幕直前の2021年末からは、中国移動(モバイル)と中国広電(テレビ)の共同事業として、700MHz帯域での5G基地局が動き始めており、MBSの活用も、やはり、中国がリードするのかもしれない。

     記憶の新しいところで、デジタルサイネージ業界を活気づかせた技術にLEDがあるが、その大画面化や天安門広場でのシンボリックな活用などで、世界をリードしたのも中国であった。幕張の展示会でも、一時は、中国産のLEDシステムで華やいでいたが、5G-MBSによる高精細、低遅延、大量デバイスの特徴を駆使した個性的なサービスが、大量に押し寄せてくる日が近いかもしれない。「中国のチームラボ」といわれるBlackbowによる北京オリンピックのメディア・アートも感動的だったが、彼らが、5G-MBSを使ってどんな演出をするのか、ぜひ、観てみたい。パリオリンピックあたりだろうか。

     だが、3GPPのWG等への参加に日本企業の名前が見当たらない。ほとんどの会議ではHuawei対欧米企業という構図になっていて、日本企業はビジネスをリードする国際標準化活動の舞台から遠ざかっているようだ。デジタルサイネージのように、テクノロジーとクリエイティブの密接な関係が必須な、さらにいえば、テクノロジー抜きのクリエイティブはあり得ないような事業領域で、このような状況であるというのは、なかなか、苦しいとしか言いようがない。(S.N.)

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