見られる場所はどこにある?
サイネージと設置環境におけるユーザー心理との関係性
「気がついたら、サイネージが付いていた」よく行く店、施設、あるいは道の通りでそんな経験は無いだろうか。だがあらゆる場所に設置されたサイネージも、我々が見る(見てしまう)かどうかは、場所に加えて別の要素も働いているように思える。それはどのようなものか、その一例を考察してみたい。
大日本印刷株式会社(DNP)と株式会社日立ビルシステムが、マンションやオフィスビルなどのエレベーター向けに今年6月からデジタルサイネージ事業を開始するようだ。
▽「DNPと日立ビルシステムがエレベーター向けのデジタルサイネージ事業を共同で提案へ」
https://news.yahoo.co.jp/articles/1e4a1ff56b52c71e81db5eb1c246483475caa5cd
今やデジタルサイネージは大小あらゆる場所に設置されている。
その為、このニュースもまだ付いていなかったスキマの場所にサイネージを設置するのか、と捉えがちだが、実はよく考え計画されていることが窺える。
エレベーターの空間は、基本的に静かで狭く周りの壁にはボタン以外何も無い。
そして利用者自身の目的は到着階にあり、多くの場合、そこに着くまでの僅かな時間を静かに、ただじっと待つだけである。
この「静かで、自らも特に何もしていない」というのがポイントなのだと思う。
こういう時の心理状態では、自分の周りで少しでも動きや音がしたら、思わず関心を向けて視線を移してしまわないだろうか。
そして、外からの刺激がない空間の中で、集中して見てしまうのではないだろうか。
これを踏まえると、エレベーター内のサイネージは、派手な映像や音である必要もない。
ただの貼り紙では見過ごすところを十分に視線を集め、効果的に訴求することができるだろう。
本事業に関する別メディアの記事も拝見すると、都内マンションのエレベーターにサイネージを設置する実証実験に於いて、エレベーターを利用したマンション住民の6割以上がサイネージの配信内容を見たという結果が出たらしい。
ただ空いていて設置できそうだからではなく、その場所ならではの空間を利用して「見てしまう」存在に上手くサイネージを当て込んだ好例だと筆者は感じている。
もちろん場所柄によってサイネージの役割は変わってくるが、サイネージを設置したい・広告や情報コンテンツを見て欲しいという時、「サイネージを見てしまう状況となりうる場所はどこか?」を視聴者目線で検討しておく重要さを、サイネージ業界に携わる一人として改めて考えさせられた次第である。(K.S.)