デジタルサイネージの向こうにあるもの
~例えば量子コンピューター~
デジタルサイネージは、もちろん何につながっていても良い。デジタルサイネージの前に立った人にどんな体験を届けるのか、そのきっかけを何にするかは自由自在だ。
10年ほど前は、友人に「デジタルサイネージの仕事もしている」と話すと、「デジタルサイネージって何?」ときかれた。今はそんなことはなくなって、逆に、いろんな人がいろんなところでいろんなタイプのデジタルサイネージを見て、「ああ、あの人は、こんな仕事をしているのかな」と思い出してくれるようになった。思い出してもらえるのは、嬉しい。ほとんどのケースでは、私はかすってもいないけど。
それだけ、デジタルサイネージが身近になったということだ。
さらに逆に、ずいぶん長年にわたって「マンションのロビーにインフォメーションサイネージを置く件」を相談しているクライアントさんとの雑談で「最近、何か変わったことしてますか?」と尋ねられて「量子コンピューターにつないだ実証実験を」と答えると、「デジタルサイネージは量子コンピューターにもつなげるんですか? それはおもしろいですね」とのこと。実際は、その実証実験はデジタルサイネージとは関係なくてPCからアクセスしているのだけれど、デジタルサイネージ(と呼んでも不自然でない表示装置)に結果を出力してもかまわないなと思って、「そうですね、つなげますよ」と答える。そして、カナダにある量子コンピューターの未来の話でしばらく盛り上がる。
量子コンピューター本体は、今のところ、そのあたりに置いておくわけにはいかない。巨大な冷却装置が必要だ。だから、クラウドを経由してつなぐ。解決すべき課題を量子コンピューターに投入できる形にPC上で編集してから、ほんの一瞬だけ量子コンピューターにつないで計算結果を手に入れ、それをまたPC上で見たい形に編集して表示する。例えば、その表示先をデジタルサイネージにしたイベント「量子コンピューターで経路問題を解決してみよう!」というものがあってもかまわないのだ。体験する人は、デジタルサイネージの前で地図上の「目的地」をタッチして選んだりすれば良い。
それもこれも、ネットワークや周辺機器が進化してきたから、できることだ。
「量子コンピューター」は、昨今のいわゆるバズワードの中でも着地点がまだまだわかりづらいジャンルだが、一部の用途では結果が出始めている。そういう技術の進化の過程をデジタルサイネージが身近に見せてくれる、という言い方をしても、楽しくて良いと思う。デジタルサイネージのインターフェースや表示されるものを、柔軟に変えていけるようにしておくのが肝要である。(Y.K)
※ 写真は、カナダのD-Wave社に設置されクラウド経由で貸し出されている「量子アニーリングマシン:D-Wave 2000Q」の心臓部「超電導回路」