「見えないものを測る」時代へ——屋外広告が拓く、環境配慮と透明性の新基準
企業の環境開示義務化を背景に、広告業界でもGHG排出量測定の動きがみられる。6メディアを横断する測定基準を策定する業界としてのAd Net Zeroの取り組みの一方で、各企業も様々な形でソリューションを模索している。一例として、環境・経済・社会にまたがる領域を包括測定するジェーシードゥコーの取り組み「360 Footprint」を紹介する。
近年、企業の環境負荷に対する説明責任は、ますます厳格化している。日本においても、上場企業の環境情報開示が2023年度より義務化された。今後は義務を適用する企業の拡大や、国際基準に準拠したルールの適用などが進んでいくと思われる。
欧州では、環境問題への取り組みがさらに進んでいる。環境情報の開示はもはや「推奨」ではなく「義務」へとシフトし、これは広告に携わる企業も例外ではない。広告活動に伴う間接的な温室効果ガス(GHG)排出、いわゆるScope3の報告が強く求められる。
2025年に実施された欧州のマーケティング専門家を対象とした調査(FreeWheel European Marketers Survey 2025)によると、回答者の約60%がすでに「デジタルマーケティングキャンペーンのカーボンフットプリントを追跡している」と回答している。もはや環境負荷の測定は、先進的な一部の企業の取り組みではなく、マーケティング活動における標準的な要件となりつつある。
こうした背景を受け、広告業界全体でも測定基準の統一化が進んでいる。象徴的な動きが、英国で発足し世界へ拡大しているイニシアチブ「Ad Net Zero」による取り組みだ。
Ad Net Zeroは、広告業務の脱炭素化を目指し、メディアプランニングとバイイングからの排出量を削減するためのアクションプランを提示している。グローバル・メディア・サステナビリティ・フレームワーク(GMSF)」は、デジタル、テレビ、OOH、ラジオ、プリント、シネマという6つの主要メディアチャネルを横断するフレームワークである。
 
広告産業全体が排出するGHGは、世界の総排出量の約3%から4%に達するとも推定されており、これは航空業界の排出量に匹敵する規模だ。メディアごとに異なる測定指標を統一し、比較可能な「ものさし」を作ることは、業界全体の責務ともいえる。
 
屋外広告のグローバル企業ジェーシードゥコーでは、環境に対する会社の取り組みを広告キャンペーンとして展開した:「WE MEASURE WHAT YOU CAN’T SEE(見えないものを測定する)」。2026年2月に発表した「360 Footprint」の国際展開を発表するキャンペーンである。
360Fooprintは、実施された広告活動の、環境・経済・社会への影響を包括的に測定するためにジェーシードゥコーが開発し2021年からフランス国内でパイロット運用を開始したツールだ。主要な広告主50社の、実際に掲出された230件以上の事例分析を行って検証を進め、実績を踏まえてブラジル、イタリア、ドイツでの展開を皮切りに、グローバルスタンダードとしての確立を目指していくことを宣言している。
このツールは、以下の4つの領域をカバーするホリスティックなアプローチを採用している。
● カーボンフットプリント:CO2換算での排出量
● ウォーターフットプリント:水資源の使用量(立方メートル)
● 社会的フットプリント:地域社会で支えられるフルタイム換算(FTE)雇用数
● 経済的フットプリント:国内経済において創出される経済的価値
屋外広告は、デジタルメディアと比較して物理的な構造物を伴うため、環境負荷はわかりやすいともいえる。同時に、バスシェルターやストリートファニチャを通じて地域に貢献し、公共インフラとしての価値を提供するという側面もあり、これらを含めた「360度の軌跡」を可視化して、これまで見えにくかった「社会的・経済的価値」と「環境負荷」の両面を定量化し、透明性を担保しようとする試みである。
 
 
日本の屋外広告業界にとっても、環境負荷の測定と開示は避けて通れない課題だ。しかしこれを単なる「規制への対応」として考えるだけでなく、屋外広告というメディアが持つ独自の強みを再定義する好機と考えてみることはできるのではないだろうか。
測定はゴールではなく、改善へのスタートラインだ。ジェーシードゥコーでは測定データに基づき、低インパクトのインクの使用、再生紙への切り替え、電力消費の最適化、再生可能エネルギー由来の電力活用、廃棄物のリサイクル等、具体的な削減策を、各国それぞれの状況を鑑みつつ、進めている。屋外広告の環境に向けたこれらの活動をもっと積極的にアピールしていくことは、業界の発展につながる。「you can't manage what you can't measure. (側的できないものは改善できない)」という考え方もある。しかし、測定できないものを改善し、改善を取り組みとして可視化することはできる。ブランドと消費者との信頼関係を構築することにもきっとつながるだろう。
グローバルな基準と足並みを揃え、環境配慮と社会的価値を両立するサステナブルなメディアとしての進化が期待される。
(Y.T.)