地方路線の無人駅におけるデジタルサイネージの役割
観光で訪れた地方の無人駅で目的の電車がなかなか来ず不安になる旅行者と、少ない人員で遅延情報を掲示しなければならない駅員の焦る姿。肥薩おれんじ鉄道のデジタルサイネージ導入は、地方路線におけるデジタルサイネージの役割を浮き彫りにしてくれた。
想像してみてほしい。もし、あなたが、観光で訪れた地方の無人駅で、1時間に1本しかない目的の電車が待ってもなかなか来なかったら。不安に思いながら左手に荷物を持ち、右手で小さな子の手を繋いで電車を待つ。暫くして、荷物を置きスマホで検索をする。そこで初めて、あなたは鉄道が遅れているということを知る。旅の疲れも重なり、イライラの矛先が鉄道会社に向くこともあるかも知れない。
また、もし自分が地方路線の担当者だったら。本部から、線路内に折れた枝が落下し電車の遅延が発生したと連絡が入る。落下物の撤去作業や、遅延情報の掲示など、少ない人員でやるべきことが瞬時に頭を巡り、早く利用者に知らせなければと気持ちが焦る。
このような状況は、過疎化が進み人手不足に悩まされるどこの地方路線でも起こり得ることかもしれない。4月にデジタルサイネージを導入した肥薩おれんじ鉄道でも、導入前は似たような問題があった。同鉄道は九州西海岸沿いを走り風光明媚な絶景が臨め、観光客にも大変人気の路線だが、一方で半分以上が無人駅だ。ひとたび、電車の遅延や運転見合わせなどが起こると、駅員が車でまわり一駅一駅に張り紙を貼っていた。その作業は時間もかかり駅員の大きな負担となっていた。
28駅29箇所に設置したデジタルサイネージには本部からの情報がリアルタイムで配信される。利用客はスマホで検索しなくとも、知りたい情報をタイムリーに得られるようになった。また、駅員の負担が大幅に軽減したのは容易に思い浮かぶ。さらに、今後はデジタルサイネージの一部を地域の企業や飲食店などに広告スペースとして提供していく予定で、観光客以外の利用者が少ない地方路線にとって、広告収入という新たな収入源も期待できる。
デジタルサイネージは最先端技術を搭載し、都心の駅をはじめ都会に溢れているイメージがあるが、田舎にこそ必要な場面があると気付かされる事例だった。また、感染症や異常気象、地震など予期し難い事態が増えている現代において、突発的な情報発信の重要性はさらに高まっている。そうした場面で、ユーザーの検索に委ねる部分が多いネットだけの情報発信だけでなく、企業が主体的に情報発信する姿勢を体現できるデジタルサイネージの役割は益々大きくなりそうだ。(E.M)